2008年12月5日(金)に第174回研究会を開催した。出席者は41名であった。
事例1「空手の技を動的機能窓法で評価する」タツタ電線 高木正和:空手の技の機能は,武器化した自分の身体の一部を相手に当て,相手にダメージを与えることである。その際,相手よりも早く自分の武器を作用させて相手の武器を作用させないこと,どんな相手,場所,時でも機能することが重要となる。自分の拳と相手の拳の動きの関係は,化学反応の機能性評価に似ていることから,機能窓法で評価を行った。速度差のSN比を計算したところ,ノーモーションが最もSN比が高くなった。機能と評価方法について活発な質疑が行われた。
事例2「技術管理者の理解を得るために」コニカミノルタ 平野雅康:品質工学の効果が出ない理由としては,対策に追われて実験を中断する,上司が問題の原因追及を求める等があり,管理者層は,品質工学が汎用的評価手法であることをきちんと理解する必要があるが,最適化手法と誤って理解されることが多い。管理者の理解度を高めるため,コニカミノルタではコンサルティングへの管理者の参加,管理者向けの教育を実施している。管理者研修を始めたきっかけや最終的に目指すのは日常的活動である点などについて意見交換が行われた。
事例3「機能性評価について(「暮しの手帖」誌の「商品テスト」との比較検討)」積水エンジニアリング 佐藤聡:約40年前の暮しの手帖誌の商品テストについて紹介。当時の編集長花森安治の強い意志の下,消費者の立場からどれを買えばいいかを示すために,客の使用条件で機能のばらつきを評価した。事例として鉛筆削りやトースター等の例を紹介したが,問題点はSN比を用いず,評価に時間がかかることにある。商品テストの目的は,消費者のためではなく,良い商品を作れば売れるとメーカに思わせることにあるが,メーカの実名を挙げて評価結果を公表するため,メーカや役所の圧力を受けない完全に独立した組織で実施する必要がある。なお,同様のテストを研究会で実施することについて検討する予定である。
事例4「機能性評価祭りIV」の参加報告コニカミノルタテクノロジーセンター 芝野広志:東北品質工学研究会主催で,「評価がもたらす効果」をテーマに機能性評価祭りが開催されたが,その内容が紹介された。リコーの電装部品の生産準備プロセス改善の発表は優秀であり,機能性評価に重点をおいて社内展開していた。総括としては,全体的に盛り上がりがあって普及を目的とした祭りの感じがよく出ており,初心者には参加しやすいが,有識者には議論できる場が少ないと感じた。
事例5「パラメータ設計の極意」顧問 原和彦:関西品質工学研究会編で「品質工学ってなんやねん」の本を出版予定であり,その内容が紹介された。掃除機のダイソンの例では,製品はきちんと機能することが重要であり,この場合は少ない電力でゴミを集塵することが重要な機能である。ほんまもんの技術者とは,胆識を持った技術者であり,倒れて後已むの心で己の信念を持ってやり続ける人のことを指すのであり,これを目指してもらいたい。
((株)神戸製鋼所 原 宣宏 記)
2008年11月1日(土)に第173回研究会を開催した。出席者は37名であった。
事例1「透明フィルムの超音波接合工程の最適化研究(論文紹介)」ジーエス・ユアサコーポレーション 出水清治:QES 2008で発表された標題の大会論文の紹介がなされた。品質工学実践の研修課題として取り組んだ事例であり,超音波接合における溶着強度の向上と安定性向上を目的としてPPシートをテストピースとして接合条件の最適化検討を実施している。評価特性は超音波溶着時間に対する溶着後試験片の溶着強度(引張荷重)であり,汚れ,加温,冷熱サイクル有無を調合して誤差因子として与えて0点比例式で解析している。接合条件をL18直交表に割り付けたパラメータ実験を実施した結果,最適条件では引張強度の向上および安定性向上が確認された。評価特性や解析方法を中心とした質疑・討論が行われた。
事例2「電力評価による主軸加工の切削性改善」三菱重工業 寺坂宏介:主軸加工に関する事例発表がなされた。切削性の評価には切削性の基本機能(①「√時間-√電力量」,②「√除去量-√電力量」)を用い,測定データとして1秒間隔でデータを取得した。誤差因子には切削電力の最大/最小,潤滑油の有無を設定した。切削加工の条件をL18直交表に割り付けてパラメータ設計を実施した結果,最適加工条件では加工時間を53%低減することができた。加工精度は現行条件のレベルを維持している。今後は切削シミュレーションを用いて検討を進めたいとのことである。除去量-電力データの解析方法,測定データの取得方法,シミュレーション検討の場合の誤差設定などで質疑・討論が行われた。
事例3「インターンシップでのパラメータ設計」村田機械 鐡見太郎:インターンシップの実習課題の一つとして実施した,綿糸製造プロセスにおける自動ワインダー糸繋ぎ条件のパラメータ設計に関する事例発表がなされた。検討の目的は糸繋ぎ部分の強度が親糸の強度と同等になることである。実習期間の時間制約の関係で,引張試験による破断強度で糸繋ぎ部の強度を評価し,自動ワインダーのエア圧設定を誤差因子として望目特性で解析した。糸繋ぎ条件から8因子を選択してL18直交表に割り付けてパラメータ設計を実施した結果,最適条件では強度向上およびばらつき低減を達成した。インターンシップ生に対する品質工学教育の進め方,評価特性,誤差因子に関して質疑・討論が行われた。
事例4「ゼロ点比例の新SN比」シマノ 太田勝之:評価において直線性が重要な場合として,線形性を評価するSN比η2の提案がなされた。総合評価としてはこれまで提案してきた新SN比η1を用い,線形性を評価したいときにη2を併用する。ノイズの影響と線形性の影響をそれぞれ考慮できるが,両者をどう重み付けするかが課題である。η2の考え方や定義に関する質疑・討論が行われた。
事例5「β3の計算について」村田機械 鐡見太郎:標準SN比のチューニングのβ3に関して,過去に提示された計算式に関する検証を行った。これまで①コンピュータによる情報設計の技術開発,②ベーシックオフライン品質工学,③品質工学便覧でβ3の計算式が示されているが,③と検算結果が一致した。QES 2008の発表番号No.148では①で提示された式を用いてβ3が計算されているが,再現性が得られなかったとの報告がある。③式で再現性が得られる可能性があることについて討論が行われた。
(花王(株) 坂本雅基 記)
2008年10月3日(金)に第6回関西地区品質工学研究会シンポジウムを「コラボしが21」3F大会議室で開催した。参加者は92名。
1.講演(10:05~11:50)「品質工学を推進する方へのアドバイス」アルプス電気 宇井友成:アルプス電気で品質工学の全社展開を始めて8年目になる。この8年の経験の中で学んだこと,成功例,失敗談などについて紹介された。アルプス電気では通信教育を01年~07年で1462人/対象6500人に実施している。①推進員のひとづくり ②品質工学研究発表大会で得たもの ③推進員同士の相互理解を深めるための取り組み ④品質工学を使ってみたくなる仲間を増やす取り組み ⑤トップ,マネージャーの理解と納得を得るための工夫について,矢野語録,谷本語録を交えながら,企業における「人づくり」を中心に,紹介された。以下の意見・質疑応答があった。
① 社長のQE,管理者のQE,技術者のQEを分けて考えることについての意見を聞きたい。また教育は役立たないと思うがどうか。 → 社長の理解はクレームが減少していることで,MTシステムを高評価している。MTシステムで流撲(不良品の市場への流出防止)ができると期待している。教育は役に立っていると考える。通信教育は最後に事例をやることを重視している。
② 品質工学でダメという結果が出た時にどうしているか。納期がない時に,この技術がダメだと言われても困る。 → アルプス電気でも,待ったなしのケースが同様に起こっている。テストピースを使った基本機能の検討をやっていないので,もっと源流の段階での活用が重要である。
③ 全社展開のレベルはどの程度か? 目標は? 講師は専任か? 費用は? → レベルの測度は一発完動率などで判定している。人はQE人材マップを活用,講師は事業部に最低1人は専任を置いている。費用は品質保証部(一部で革新G)が出しているなど,活発な意見交換があった。
2.事例発表(12:40~16:20)
(1)「シミュレーションによる排気ダクト形状の最適化」(村田機械 大矢一幸):プリンタの定着器による余熱・水蒸気など,現像器周辺のオゾン排出をするためのダクト形状をシミュレーションにより最適化することを試みた。Solid works でモデルを作り,流体解析ソフトでダクト吸引部50箇所の空気の速度分布を測定した。メッシュを荒くして時間短縮を図った。形状を決める10のパラメータをL12直交表に割り付け,速度に与える傾向を把握し,速度が大きくなる条件と小さくなる条件にノイズの調合を行った。ノイズの調合実験結果より8つの制御因子を選択し,L18直交表にわりつけ,第2水準を現行条件として実験を行い,信号は場所,N0はN1とN2の平均とし,標準SN比を用いて解析を行った。SN比最大を最適条件とし,確認実験を行った結果,現行条件との利得は再現した。吸引部の速度分布が一定値(最適条件のN0の平均)となるように,β1でチューニングを行ったが一部の速度が大きくなり,一定にならなかった。速度が大きい一部のデータを用い,望目特性の解析を行い,チューニングを行った。その結果,吸引部の速度がほぼ一定となった。吸引部の速度一定が目標であるならば,最初から望目特性の解析をすればと思い,全データを使用して望目で解析を行った。その結果,β1でチューニング後,一部のデータを用いて,望目でチューニングした結果とほぼ同様の結果が得られた。次のような意見・質疑応答があった。
①目的を考えれば最初から望目でやればよい。話を聞いたかぎりでは最初に標準SN比ありきに聞こえる。システムありきでやっているのではないか。もっと他のものも考え,あるべき姿を考え,全体最適を目指して,いろいろなシステムを考えるべき。
②L12で誤差因子調合→L18×L12の方がよい。
③目標に合わせるために感度を下げるのはよくない。
④吸引部でいろんなカーブがいるのであれば,いろんなカーブの検討をした方がよい。→ 3か所の中で1か所のみが風速が大きかったが,同時に解析をしても合わせ込みができなかったので,部分的にチューニングをした。→ 部分的にチューニングは全体に影響するのでだめである。
⑤熱,オゾンの排出が目的であれば,風速はフラットでよいのか。→ フラットにしてくれとの要求であったことなど,活発な意見交換があった。
(2)「積水化学グループにおける品質工学の教育用教材について」(積水エンジニアリング 柳本嘉弘):積水グループでは品質工学教育を3ステップで行っている。研修Ⅰ:初心者対象(3日間) 研修Ⅱ:実践者(中級)対象(2日間) 研修Ⅲ:社内インストラクター対象(4日間)。開催は年2回で,研修対象2600~2700名のうち累計約300名が受講している。品質工学による金額効果は06年約5億円,07年約7.5億円,08年目標7億円である。従来は規格協会などの外部での研修も行っていたが,現在はすべて社内で実施し,まず,積水流を学んでもらう。研修Ⅰでの機能性評価演習(コピー機の機能性評価),パラメータ設計演習(ミニ四駆を用いたパラメータ設計),研修Ⅱでの官能評価の演習(利き酒による官能評価)での教材の紹介があった。次のような意見・質疑応答があった。
①コピー機の機能性評価でコピーするやり方と機能を考えさせるやり方があると思うが。→ 基本機能を考えることもやっているが,ノイズの効果と計算方法を教えている。目的はノイズの効果を見せることである。→ 押し付けになっているのではないか。
②教育と実践ではギャップがあると思う。どれ位の人が実践で使っているのか。→ 約300人の受講者がいる。指導会で実践した人が受講した場合,リピート率が高い。1000人くらいが常に使用するようにしたい。
③金額効果は品質工学のみのものか。→ 品質工学のみである。自己申告制で開発時間短縮なども含む。
④経営指標と品質工学との関連付けが必要である。現状は利得の改善のみで止まっている。どれだけ経営に寄与したかが必要である。→ 現場改善の金額効果は比較的簡単に出せる。技術開発の場合は金を使うことになるので,いかに将来の利益を得るかを試算することになることなど,活発な意見交換があった。
(3)「エネルギー比型SN比の研究」
①「エネルギー比型SN比の概要と検証」(シマノ 太田勝之):機能性評価をしていて,データのサンプル数(水準数)により,標準SN比は影響を受けることに気がついた。ゼロ点比例式のSN比が信号の大きさの影響を受けることは知られていたが,水準数により影響を受けることは知られていなかった。全エネルギーを有効成分,有害成分,無効成分に分解し,有効成分を有害成分で割ったSN比とすることで信号の大きさ,水準数の影響を受けないエネルギー比型SN比(Sβ/SN)を提案する。y=βMでβの誤差率を±5%としたデータを作り,信号の大きさ,水準数の影響を受けないという検証を行った。従来のSN比は品質工学の体系に整合しなかったが,今回提案したエネルギー比型SN比を静特性,損失関数へ展開することで品質工学の体系に整合したものとなった
②「MTシステムにおけるエネルギー比型SN比」(オフィスワイ・エス 清水豊):MTシステムにエネルギー比型SN比を適用した事例を紹介された。T(1)法(両側T法)により,軽乗用車の燃費を緒元から予測しようと試みたものである。4項目でη=0となり,予測には関与しないことになった。予測の精度を表す総合SN比に20C型,21C型,エネルギー比型を採用した結果を示し,発表①での影響を確認する意味で,真値(信号)の燃費をkm/lからマイル/lに換算すると20C型は影響を受け,21C型は影響を受けない。信号データをコピーし,サンプル数を2倍にすると21C型も影響を受ける。この時,項目毎ηが影響を受け,予測値が変化し,η=0の項目も3項目となった。項目毎ηにもエネルギー比型を採用すると,全項目を使用して予測を行うことになり,直交表による項目選択が重要となる。項目はアイテム・カテゴリーデータがあり,アイテム9項目をL12に割り付けたが,項目選択の結果とη=0とした項目が対応していない。そこで,主要先進国の食料自給率データを用い,T(1)法で翌年の自給率の予測を行った。通常のT(1)法では,4項目がη=0となった。エネルギー比型を項目毎・総合SN比に採用した結果,直交表での項目選択の要因効果図ではη=0となった項目の中,1項目は使う方がよいとなり,η=0以外の項目で,使わない方がよいとなった項目が出てきた。結果的にη=0は項目選択の代用とはならないことが判明した。
③ パネルディスカッション,コーディネータ(三菱電機 鶴田明三),パネリスト(村田機械 鐵見太郎,シマノ 太田勝之,オフィスワイ・エス 清水豊):コーディネータが研究発表大会などでの代表的な質問・意見をQとしてまとめて提示し,パネリストがAを答えることで進めた。
Q1 エネルギー比型のSN比にすることで,再現性にどのような影響があると考えられるか?
A1 実験毎の条件(信号の大きさや数)が揃ってないことで再現性が悪い場合は改善できると思う。実験毎の条件が揃っている場合は同じ結果になる。
Q2 感度をSβ―Veとしていないので,β2を高めに推定している危険があるように感じる。弊害はないのか? β2/σ2の定義を変えるのか。β2の期待値は(Sβ-Ve)/rでVeを引いている。
A2 期待値を考えるのは推測統計学の立場であり,統計からの脱却といいながら,統計の考え方を残しているのは矛盾している。β2をたくさん求めて推定するのであれば統計的処理をすればよいと思う。Veを引く弊害もあり,VeがSβより大きくなる場合ではVeを引かないで対応することもある。全エネルギーを有効エネルギーと有害エネルギーに分けてその比をとっているので,Veの補正はいらないと考えている。最後は技術者が自分で責任をもってやればよい。
Q3 データ数が変化してもSN比が変わらないということは,評価は望目特性(信号1水準)でよいということか。動特性の必要性を否定しているのでは?
A3 全く逆で,基本的にはすべて動特性とすべきと考えている。
Q4 MTシステムにエネルギー比型SN比を用いた場合,従来不要(η=0)としていた項目が,実際には役に立つというケースがあるということか?
A4 発表②での報告にあったように復活する場合もある。他の事例においても同様の結果を得ている。η=0は項目選択の代用にはならない。
Q5 品質工学の考え方が間違っていたということであろうか?
A5 そうではなく,逆に田口玄一のすごさを感じる。今回の提案は単なる計算方法の工夫といわれればそうだ。次のような意見・質疑応答があった。
① 一般のデータでは非線形部分が含まれており,SMresとして,SN比の計算から除外していた。SMresはどのように取り扱うのか。→ 現状の式ではSNに含まれる。ケースバイケースで有害成分とするか,無効成分とするかを決めればよい。測定器の場合は直線性の乱れが問題になるのでSMresはSN比の計算から除いたほうがよい。非線形の場合は従来のSN比でも変化する。従来型のSN比でもエネルギー比型SN比でもSN比の計算の仕方の問題ではない。
② SN比はy=βMの関数関係の乱れを表現するために従来の形の式になったのではないか。分子がSβでよいか。→ エネルギー比型では,分子:Sβ/nr,分母:SN/nrであり,データ1個当たりのエネルギー比になっているので同じである。
③ 品質工学は最適化の方法であり,制御因子の主効果をみつけることである。それにはSN比が重要な役割を持っていることは間違いない。利得の再現性がなければならない。エネルギー比型SN比は無名数であるが,SN比はエネルギー相当の単位を持つべきと考えている。認めてもらうには事例を積み上げるしかない。→ デジタル,オメガ変換などいろいろなSN比がある。エネルギー比型があってよいのではないか。→ まだ検討していないSN比についても関西品質工学研究会で引き続き検討して行くことなど,活発な意見交換があった
3.まとめと講評(16:20~16:45)原 和彦(関西品質工学研究会 顧問):シンポジウムもたくさんの技術者の参加で成功裏に終った。最初の講演はアルプス電気の宇井友成の企業における「人づくり」について有益な話があった。次の滋賀QEの村田機械のテーマは,排気ダクトの形状最適化をシミュレーションで行った事例であった。京都QEの代表は積水化学の品質工学の教育に用いられている教材の説明があった。最後の関西QEの代表は「新SN比」について大会で実行委員長賞を受賞したテーマの説明があり,活発な討論で大いに盛り上がった。関西QE,滋賀QE,京都QEは15年の歴史があるが,関西企業の発展のために,お互いに切磋琢磨して品質工学の本質を追究していただきたい。
懇親会(17:15~19:00):1Fのコルネットに場所を移し,懇親会を開催した。多数の参加があり,引き続き活発な意見交換があった。
(オフィスワイ・エス 清水 豊 記)
2008年9月6日(土)に第172回研究会を開催した。事例検討と原和彦顧問から話題提供が行われた。参加者は36名。
1.事例検討
(1)「チケット発券機のパラメータ設計について」(マクセル精器 近藤真澄):新規開発したチケット発券機において,十分なロバスト性を持っているか品質工学を用いて改めて検証することを計画している。今回はその進め方について議論が行われた。印字機構部の基本機能は,電圧のパルス幅に応じた濃度を得ることとしているが,出力は濃度以外に線幅も測定した方がよい。1ドット単位で濃度測定ができるならその方がよいことなど活発な議論が行われた。
(2)「新SN比について」(村田機械 鐡見太郎):学会誌に掲載されたゼロ点比例式のSN比の定義式(前田誠:品質工学,16,4,(2008),p.62ミ69.)について議論を行った。前田誠が提案しているSN比の定義式は,全変動を有効成分の変動と有害成分の変動に分け,変動の比をとる部分に関しては,QES2008で鶴田明三,太田勝之,鐡見太郎,清水豊の提案したエネルギー比型SN比と同じである。ただし,比例定数βの求め方が異なる。この影響で,場合によっては算出されるSN比の値が変わる。βの求め方が最大の特徴である。変動の比でSN比を算出するという部分は,ゼロ点比例だけではなく標準SN比でも通用する提案のはずである。信号値が揃っていない場合の対処がメインなので,ゼロ点比例のSN比に対する見直しに限定しているのではないだろうか。今後は実事例で適用して精査すべきことなど活発な議論が行われた。
2.「これからの技術者・品質工学に期待すること」(顧問 原和彦):不祥事を出している会社は,どこも企業体質に共通点があると感じている。日本人は,北京オリンピック水泳で金メダルを取った北島選手の成果には感動する。そこしか見ない。しかし,プロセスが大切である。企業活動に置き換えれば,「何のために」「誰のために」を考えて行動することを忘れた結果,問題が起こるまで問題の大きさに気がつかないで不祥事を招いている。これから品質工学を学ぶ人は,先人の事例を見て真似るやり方でもよい。事例の数を重ねることで本質が見えてくるようになる。品質工学はムダな作業を最小限に止めて最大の効果を得る手法であることが分かってくる。田口玄一の哲学には,「社会的な生産性向上」とか「社会的な自由度の拡大」がある。従来の一方的な大量生産的な生産性と違って,低コストで高品質な製品を早く生み出し,余剰人員をリストラするのではなく,新しい雇用を創出し社会全体の生産性の拡大を図るという考えが根底にある。「木を見て森を見ず」ではなく,本質を見抜ける力をつけていただきたい。
(富士ゼロックス 櫻井英二 記)
2008年8月1日(金)に第171回研究会を開催され,テーマ検討会とグループディスカッションが行われた。参加者は32名であった。
1.テーマ検討会
(1)「品質工学を如何に教えるか,その3」(コニカミノルタビジネステクノロジーズ 芝野広志):「どうすれば広く品質工学を理解してもらえるか」を目的に,これまでの2回の議論を整理した。2つの視点で掘り下げてみた。1)誰に教えるか:経営者,技術者,学生のそれぞれについての必要性をまとめた。2)教える内容:哲学である「社会損失の最小化」は,「社会損失の低減は経営者の責任」として,「技術者の自由の総和を増大する」は,「技術者が創造性豊かな仕事に従事するための手段が品質工学」として,わかりやすく説明できると提案された。さらに,「品質工学を使うことが目的ではない。」と目的の重要性が指摘された。学生や経営者への教育も,その賛否も含め活発な議論が行われた。
(2)「JIS Z 8403について」(村田機械 鐡見太郎):JIS Z 8403-1996の「付属書3」の5章,6章について取り上げ,その疑問点について議論が行われた。JIS原案作成委員会検討の際に,「望目特性」など,多くの品質工学用語がJIS規格に採用してもらえなかったという経緯があるのではないかとの意見があった。それでも,説明不足の点が多く,これを参考に自分の事例をあてはめることは一般の方には困難ではないかとの指摘もなされ,学会誌への投稿も勧められた。
2.グループディスカッション:5-6人程度の4グループに分かれ,各会員の小さな疑問点や相談が数多く議論された。その中から次のテーマが全体討議として行われた。
(1)「周期分析とは何ですか?」(シマノ・井上徹夫):田口玄一氏が最初に示した校正周期の決定方法で,周期を2倍,4倍と変化させ,どの周期で校正するのが最適かを行う手法であった。校正周期の求め方はZ 9090の校正周期の求め方に発展して行ったが,従来の決定方法を表面粗さなどの改善方法として,周期分析として応用されていることが報告された。
(2)「ガスタービンの状態監視におけるMTでの単位空間のとり方」(三菱重工 高濱正幸):発電用ガスタービンの状態監視に振動や温度など約50項目を常時測定しているが,MTを使ってより早く異常検知したい。しかし,毎日運転パターンが異なるため,単位空間のとり方についての相談があった。時間ごと,パターンごとなど,複数の単位空間を取る。時間も項目に入れるなどの提案が行われた。
(シマノ 太田勝之 記)
2008年7月4日(金)に日本規格協会関西支部6Fにおいて,田口伸ASI社長を招聘し,第170回関西品質工学研究会が開催され,特別講演とテーマ検討会を行った。参加者は44名であった。
1.特別講演(ASI社長 田口伸):品質工学の発展してきた歴史的な部分,アメリカでの指導内容から父田口玄一についてのこぼれ話まで,昨年に引き続いて,同氏ならではの楽しい講演であった。特に今年はASIでの指導方法や実際の事例に関するお話が披露されたことで,賛否両論にわたる活発な意見交換ができた。本研究会特有の,“自分の言いたいことは必ず言う”,という独特の雰囲気の中,「この研究会は,いったい何なんだ?」と,講演者の田口伸が驚く(怒る?)場面もあり,はたして来年も登壇してもらえるのか若干の不安は残ったものの,日米の品質工学研究の交流ができたことは大変有意義であった。
2.テーマ検討会
(1)「軸受け周りの疲労強度ロバスト化について」(ナブテスコ 牧野直宏):現状の疲労強度検査(評価)では,市場でのトラブル発生を見つけられないので,新たな評価方法を品質工学的な観点から再検討する必要がある。現在の評価の問題点として,ノイズレベルが市場条件に合致していないのではないかとの議論が行われた。
(2)「品質工学に基く自動車サスペンション系ロバスト最適設計」(マツダ 内田博志):先日開催された研究発表大会に発表し,金賞を受賞した事例。シミュレーションを反復使用して,最適化のレベルを向上させている。さらに,ハード(車両)の安定性を最適化した後に,制御系の改善・チューニング(振動をすばやく吸収する)に取り組んだ点が,このテーマを成功させたポイントであるとの議論が行われた。
(3)「T法による自動車乗り心地指標の定量化」(マツダ 内田博志):このテーマも研究発表大会に発表した事例。自動車の乗り心地評価を,人による官能評価から,振動波形の測定データから推定する方法に変えることができるかを検討し,人の官能評価に最も適合する乗り心地モデル(モデル式)を構築する。今回の研究では,乗り心地を判断するいくつかの指標のうち,「インパクトショック角感」について取り組んだ結果である。
(4)「シミュレーションを用いたダクト形状の最適化」(村田機械 荘所義弘):OA機器の内部で送風,あるいは吸引に利用するダクトの形状を,シミュレーションによる解析を利用して,安定して狙いの風速が得られるような最適化を検討した。狙いとしては,いろいろな誤差があっても安定して,狙いの位置に狙いの風速(分布)が得られることである。
(コニカミノルタ 芝野広志 記)
2008年6月7日(土)~8日(日)にコニカミノルタ琵琶湖保養所にて第169回研究会(宿泊研究会)を開催した。出席者は35名。
1.「光ファイバーデバイスパッケージの評価方法」(タツタ電線 松浦正憲):光ファイバーが通信のみでなく産業分野でも使用されるようになり,伝達する光のエネルギーが高くなってきている。デバイスでのロスは熱に変換されてしまうが,総エネルギーが大きくなると,発熱の影響が無視できなくなる。そこで放熱機能の研究をしようとしている。これに対し,放熱機能はサブシステムなので,放熱機能を測っても全体最適にはならない。光を伝達する機能を測るべきではないか。またこの事例ではその方が実験が楽ではないか等の意見があった。
2.「新SN比に関して」(原和彦 顧問):QES 2008で関西QE研のメンバ4人が「新SN比の研究(1)~(5)」の発表をする。簡単な電気回路のシミュレーションで従来SN比と新SN比の両方を試してみたところ,どのSN比でも利得は一致した。また,新SN比では信号値を入力とした場合(動特性)と,標準条件での出力とした場合(標準SN比的)では,SN比の絶対値も一致した。新SN比では変化率が同じなら同じSN比になるようだ。新SN比の動特性と静特性(望目)の値が一致すると
いう表現は問題があるように思う。動特性と静的動特性が一致するというのならわかる。これに対し,信号が1水準の時が望目とする解釈もあり,QES 2008での発表論文の記述はこの解釈で行っている等の意見があった。
3.「シミュレーションを用いたパラメータ設計実施方法について」(ブラザー工業 加藤重己,坂野雄治):プリンタの紙送り機構で,レジストローラは紙の斜行を補正する機能を有する。このローラ周辺の設計の最適化をCAEを活用してやりたいと考えている。どのような実験計画を考えればよいか。またこの事例に限らずノイズの設定(割付)についていろいろな方法があるが,どのように考えればよいかについての相談があった。これに対し,この課題では何を理想機能・理想状態と考え,何を評価特性値とするかがポイントである,ノイズの割付は場面によって変わる,必要ならノイズの研究をすると良い等の意見があった。
4.「品質工学をいかに教えるか・その2」(コニカミノルタビジネステクノロジーズ 芝野広志):当研究会で継続して議論することとなったテーマの第2弾。今回は6グループに分かれてのグループディスカッションを行った。6つのグループは,議論のスタートを①何を教えるか,②誰に教えるか,③いつ教えるか,④どこで教えるか,⑤なぜ教えるか,⑥どのように教えるか,の6つの切り口に分けて行った。今回は全体討議は行わず,次回以降継続して議論することとなった。
(村田機械 鐡見太郎 記)
2008年5月9日(金)に第168回研究会を開催した。参加者は42名。午前に講演,午後に事例相談が行われた。
1.講演「品質工学を推進する方へのアドバイス」(アルプス電気 宇井友成):品質工学を推進する方へのアドバイスとして,アルプス電気の例を挙げて以下の内容についての講演があった。
○自己紹介,トピックス ○アルプス電気での推進状況 ○人づくりを中心とした品質工学の展開 ○効果的な展開を行うには ○胆識をはぐくむ5分間スピーチ ○中国現地法人の展開 ○一発完動 ○東北研究会等の内容が紹介され,その後推進する上での悩み等の質疑応答が行われた。質疑応答で,量産品の機能性評価(オンライン機能性評価)が紹介され,MTシステムで全数検査(完動検査)を行い,ノイズを1晩加えて機能性評価を抜き取りで行い,対象ロットを合否判定する方法が紹介された。
2.事例相談
(1)「品質工学をいかに教えるか」(コニカミノルタ 芝野広志):品質工学を普及する時の疑問,悩み,提案に関して継続して議論したい。品質工学を教えることとは品質工学を定義することが必要と考え,研究会で定義していきたい。スタート:品質工学を教える→(教える側と教えられる側に認識の差がある)→ゴール:品質工学を定義する。認識の差とは,①何を教えるか,②誰に教えるのか,③何処で教えるのか,④何時教えるか,⑤なぜ教えるのか,⑥教える方法は,を順に検討しませんか?ただし,分ってないからは禁句とするとの提案説明があり,品質工学をいかに教えるかに関して質疑応答が行われた。簡単に結論が出せる問題でないので,次月に継続検討することとなった。
(2)「QES 2008新SN比関連の発表内容の紹介」:QES 2008で発表する「QES 2008『新SN比の研究』従来型SN比の問題提起」(鶴田明三 三菱電機),「新SN比の計算方法とデータによる検証」(太田勝之 シマノ),「数理と静特性への拡張」(鐡見太郎 村田機械),「MTシステムにおけるSN比の問題点と新SN比の効果」(清水豊 オフィースワイエス),「品質工学の体系と新SN比の整合性」(鶴田明三 三菱電機)に関する内容の紹介があった。
(村田機械 荘所義弘 記)
2008年4月4日(金)に第167回研究会を開催した。参加者は33名で,テーマ検討とグループディスカッションが実施された。
1.テーマ検討
(1)「色ずれの評価方法の効率化(機能性評価)」(ブラザー工業 高田亨): カラープリンタでは,色を重ね合わせて画像を出すが,色ずれが生じると重大な問題となる。QM部門として,①効率的な色ずれ評価方法の確立,②市場で大丈夫かどうかの判断,③ベンチマークによる各社の強い誤差因子と弱い誤差因子の明確化,を目的に機能性評価を実施した。評価方法としては,色による位置ずれを測定すべく,K(黒)YMC各色のかたまりを印刷して各点の座標を測定し,ランダムにかたまりを2つ選定して色毎に距離を評価した。基本機能は,黒の2点間距離を入力として,対応するYMCの2点間距離が比例することとした。誤差因子としては,使用条件に関する誤差(印字枚数,印字方法,紙種,温度差,設置姿勢,用紙積載量:各2水準),色の誤差(YMCの3水準),劣化の誤差因子(標準,低温保存,高温保存,サーマルショック,紙劣化,振動等)とした。A社B社の2台を評価したところ,誤差因子全部を入れた総合評価のSN比では,2社で大きな差はなかった。また,劣化前後で2社の各誤差因子のSN比を比較することで,各誤差因子の影響度が明らかとなった。質疑・意見等が以下の通り行われた。
・誤差をたくさん取り上げた理由は,市場では多くの誤差因子があり,複合的にきく場合があり得るためである。
・今回の機能性評価の目的は,社内の評価基準作成や悪い点を設計者にフィードバックすることなどではないか。
・位置ずれも含めて総合的なSN比を評価した方がよいのではないか。
・黒が基準のため,傾いてもSN比が低くならないのは問題である。
・従来はモード設定して評価している。今回の発表の意義は誤差因子毎に評価することで,効率良くかつ誤差因子の影響もわかることが重要である。
・誤差因子は客の使用条件であるべきで,客が望むプリンタは何かを考えることである。
2.グループディスカッション:4グループに分かれてグループディスカッションを実施し,活発な討議が行われた。以下の3件が全体討議として行われた。
(1)「標準SN比のチューニング」(オムロン 真崎藤義):標準SN比のチューニングに関して直交多項式を使って合わない問題に対し,目標特性とはるかに遠い状態でチューニングした場合に生じることが紹介された。
(2)「殆(近似)直交表」(村田機械 鐵見太郎):殆(近似)直交表が紹介された。これは,完全には直交していない直交表で,例えば,L18にB′列を追加(BとB′列は直交しない)したもの。他にもB′追加とは少し異なるL′18(21×38)やL′12(21×35),L′15(51×35),L′24(21×311)などがある。少し複雑にはなるが要因効果は求められ,交互作用のチェックのため使用する,といったように目的がわかって使用する限りでは,利得の再現性はあるため,活用できそうである。
(3)「アクリル板に黒のスクリーン印刷した際,ピンホールが発生する場合の評価法」(富士通テン 濱田行彦):評価法について相談があり,裏面から強力なライトをあてて照度測定またはスキャナで読み取る,光を回折させてパターンで評価,金属板に印刷して導通で評価などの意見が出された。
(神戸製鋼 原宣 宏 記)
2008年3月1日(土)に第166回研究会を開催した。参加者は40名で,テーマ検討を実施した。
1.「ダイカスト流動解析による金型構造の最適化」(シマノ 井上徹夫):回転変形が少ないギヤ歯の成形を行うことを目的として,ダイカスト流動解析による金型形状の最適化検討を実施した。基本機能の定義では,入力を湯の流入温度とし,出力を歯形状部の温度とした。予備検討で現行形状と異なる新形状を選定し,ゲートおよびオーバーフローの寸法を制御因子としてL18直交表に割付けたパラメータ設計を実施した。最適化した新形状と現行形状と比較したところ,7.4dbの利得向上が確認された。以上の解析結果を踏まえて実物成形を行い,得られた2つの成形物に対してギヤ歯の3次元測定を行って比較したところ,最適化した新形状は現行形状に対して形状ばらつきが大きくなっていた。3次元測定結果の分布図ではオーバーフロー近辺でばらつきが大きいことが示され,歯面観察では湯じわが多いことが確認された。今後は密度の均一性を考慮した基本機能(入力:射出量,出力:充填量)を同時に用いた検討を進めたいと考えている。質疑・意見等が以下の通り行われた。
・ゲートはチューニング因子と考えるべきである。
・流動状態/流動時間のばらつきを評価すべきである。すばやく流れるとばらつきは少ない。
・流れのばらつきをどのように評価するかが課題である。計測特性の候補としては,流速,時間-充填量,金型圧力分布等が考えられる。
・温度がばらつくと収縮がばらつくので,温度のばらつきも見るべきであると思われる。
2.「MT法を用いたCCD不良工程特定」(三洋電機 田中創):CCD製造工程における白点不良と呼ばれる不良モードの半減を目的として,MT法を用いて工程診断を実施した。100ロットの収集データを用意し,白点不良が10%未満の70ロットを単位空間とした。不良グループを不良率ごとにグループ化し,望大特性のSN比を用いてマハラノビス距離を求めたところ,低不良率グループと高不良率グループを判別可能なことを確認した。次いで直交表を用いた項目診断を行い,不良発生の上位工程を抽出した。その結果,アニール前放置時間,酸化炉の影響が大きいことが確認された。重回帰分析においても0.464の相関係数が得られたことから,有意性を持つと判断した。これらの工程に対して対策を講じたところ,白点不良を半減できた。質疑・意見等が以下の通り行われた。
・解析上の課題は不良率を望大特性で用いて解析している点と考えている。
・不良モードを白点不良に絞った理由はデータ数を揃えるため。今なら1~2かのデータ数で基準空間を構成できるRT法の適用を考えることができる。
・単位空間を構成するロット群をどのように設定するかが課題である。今回の検討では単位空間は歩留まりの良いロット群から構成されているが,一般的に単位空間は平均的な歩留まりのロットから構成するべきとされている。一方,本検討のように歩留まりの良いロットから構成する考え方もあり得るように思われる。
3.「汎用性の高い切削工具を開発するための評価手法の相談」(三菱マテリアル 和田恭典):新規切削工具の開発において,素材・表面処理を選択する段階で効率的な評価手法を導入したい。磨耗量を特性値とした直交表実験を行うことによって,それまで個々に評価していた素材・表面処理の影響を同時評価できるようになり,再現性が改善される結果が得られている。現在は,より広範囲な切削条件・被削材・機械に対応できる切削工具の開発に品質工学の手法を適用しようと考えている。切削の機能性評価としては電力評価が一般的であるが,素材・表面処理の選定段階ではそもそも工具としての安定性が乏しく,電力評価に持ち込むことが難しい場合もある。また電力評価に持ち込むまでの工具製作の工数も小さくはない。質疑・意見等が以下の通り行われた。
・材料メーカの立場では,被削材・加工機械・加工条件・潤滑条件などはすべて誤差因子と見るべきではないか。それに対するシステム選択の問題と考えるべきである。
・切削の機能性評価の問題と思われる。誤差因子に対してアイディア毎に評価してみてはどうか。物性値(硬度,ヤング率等)を直交表に割り付けて組み合わせの効率化を図る方法も考えられる。
・実物評価の工数が課題ならば,切削シミュレーションの利用を検討してみてはどうか。
・上流の評価を考える場合には,切削の機能に対するサブシステムとして素材・表面処理の機能を機能展開する必要があると思われる。
・今あるかなりの数のデータを利用して方向性を見極める目的ならば,MTシステムの利用も考えられるように思われる。
4.「SN比と損失関数」(村田機械 鐡見太郎):SN比を用いて損失Lを見積もる場合について検討した。規格限界が傾きβ(望目では平均値m)の目標値β0(同m0)に対する比率pで与えられる場合について,20世紀型,21世紀型のSN比を用いた場合と望目特性のSN比を用いた場合とで損失Lが大幅に異なる場合があることがわかった。20世紀型のSN比は信号因子の水準値の影響を受けるので,損失を1/M2(ただし,M2=r/k)で補正する必要がある。ただしSNを自由度で除している分については補正しきれないずれが残る。21世紀型のSN比はデータ数の影響を受けるので(nk-1)で補正する必要があるが,望目特性から求める損失との差異が生じる。新SN比では補正そのものが不要である。質疑・意見等が以下の通り行われた。
・SβからVeを引くことに関しては,他の方(立林和夫氏,宮川雅巳氏)の著作にも「引く意味はない」とする記述がある。
(花王 坂本雅基 記)
2008年2月1日(金)に,第165回研究会を,参加者26名で開催した。
1.「糸巻取機のブレーキ破損対策」(村田機械 鐡見太郎):糸巻取機を2004年にモデルチェンジしたが,ブレーキは従来のものを使用した。2005年頃よりブレーキ破損の情報が入り始めた。破損対策のため直交表による実験を提案するも拒否され,担当技術者が出すアイデアに対して機能性評価を行ったが大きな効果なしのため,直交表による実験を実施することになった。ブレーキ作動の指令が出てから糸玉が停止するまでの回転数の変化を測定した。ノイズは熱による劣化とし,新品初期をN0,ブレーキ連続作動としてN1~N9とした。最適条件は現行条件とほぼ同じであり,メカ的設計要素では限界まできていることがわかった。研究会メンバーより紹介してもらった業者からブレーキ用摩擦材のサンプルを7種類入手し,機能性評価を行ったところ現行品より9.58db良いものがあり,市場テストを実施し,現在6か月経過も問題がない。
次のような質疑・討論があった。
・面圧については,面圧パルスは2水準とし,信号とした方がよい。→ 現状,設計で一定にして,制御因子で取り上げた。/・対策品のSN比が良いと劣化が早いか,効きが悪くならないか。→ 効きも劣化に対してもよい。→ 今後,最適な摩擦材の配合を探っていきたい。
2.「樹脂成形条件最適化における特性値」(富士通テン 田畑文夫):目的はプラスチック製シャーシの不具合対策をしたい。シルバーストリークと呼ばれる微小な表層剥離が発生している(ゲート位置付近に発生)。L18直交表の実験を実施した。特性値はテープテストでの剥離面積で望小特性,誤差因子は樹脂の温度とした。剥離面積0の場合+3db,バリ発生は-3dbとして欠測値を処理したが,利得に再現性がない。
次のような質疑・討論があった。
・射出シリンダの条件とゲート位置が重要である。
・空中重量と水中重量の比例関係を見る。
・L18の実験で剥離0のものが4つある。→ No.3,4,10,14は剥離0である。同じ条件でやればまた0となるのか,この4つの条件を利用すればよい。
・利得に再現性がない原因は特性値の悪さ,欠測値の処理以外別にあるのではないか。
3.「MTシステムによるパターン認識の事例検討」(コニカミノルタ 芝野広志)
(1)「車の乗り心地ランク ミズーリ大学 K. M. Ragsdellの事例」:QES2007での発表はMTGSを適用していたが,単位空間の設定が悪いと指摘した。T法(米国にはT法が紹介されていない)を紹介したら,解析をやってくれとデータを送ってきた。真値はJ.D.パワー社のCS値,信号空間6個の結果は総合SN比21.4dbと良かったが,19個を未知データとして計算するも,真値が±0.35の狭い範囲しかなく,上下限のデータを要求したが,入手できていない。
(2)「乳がん検査結果の判別 ミズーリ大学 E.A.Cudneyの事例」:MT法とRT法で解析している。単位空間を良性の205サンプルとし,良性の残239サンプルと悪性の239サンプルを信号空間とした。(本来は健常者のサンプルを単位空間とすべきである。)MT法では良性で4,悪性で69の誤判別,RT法では良性で1,悪性で77の誤判別があった。相関を考慮した項目を追加するとRT法での悪性の誤判別が77から35に減少した。
次のような質疑・討論があった。
・誤判別は0にしたいが,悪性の人を良性と判断するリスクが大きい。・単位空間で距離が大きいサンプルを除いて単位空間としてはどうか。・悪性のサンプルで最小距離を閾値とする。
(3)「アイリスの品種判別」:MT法の方がRT法より判別精度が良い。相関を考慮した項目を加えても誤判別の改善ができなかった。
(4)「目標値が1つだけの場合のMTシステムによる解析」:目標とする企業(コニカミノルタにとって都合のよい企業)にどれだけ近いかをMDで調べたい。20項目で企業の順位付けをやりたい。項目の目標値を第2水準,-α(許容内)を第1水準,+αを第3水準としL36直交表にわりつけ,仮想の単位空間とする。項目のばらつきを大きくして仮想の信号空間とし,RT法で計算した。
次のような質疑・討論があった。
・仮の順位またはランクを付け,中央付近を単位空間として,単位空間データを含めて信号空間の順位またはランクを予測し,予測値の中央付近を新しい単位空間として同様のことを繰り返せば数回で収束するのではないか。
・単位空間のデータが1つの場合のRT法はSN比と感度を計算し,1/η(=Ve)+(β-1)2を距離
とする。
4.「金メッキ膜厚の制御」(コダマ 新井千穂)
・目的は①狙ったメッキ厚を容易に作る。②メッキ厚のばらつきを改善する。③メッキの生産効率を改善することである。電気メッキの場合膜厚はバラツクのが常識である。角部は厚くなり,凹部はつきにくい。メッキに関する品質工学の論文を頼りに実験を計画しようとしたが,メッキ量を一定にするのか,メッキ厚を一定にするのか,何をどう測ればよいか。
次のような質疑・討論があった。
・テストピースの形状は良いので,テストピースの寸法を信号にメッキ後の寸法を特性値とすればよい。
・ノイズは場所,槽内位置,治具への装着数等とした。
・電流×時間を信号としメッキ厚との関係をみる場合,制御因子に電流密度を取り上げているので,実験No.毎で電流密度が変わるから時間幅を変更して水準ずらしをして,入力エネルギが同じになるようにする配慮が必要である。
・実験により生産性,コスト等への影響を調査できる。
(オフィスワイ・エス 清水 豊 記)
2008年1月12日(土)に,総会と第164回研究会を日本規格協会関西支部において,出席者36名で実施した。
(1)総会:芝野広志会長より,研究会設立から15年目を迎えて会員数がますます増加し,76名となり,活発な活動を続けている。これも皆さんの協力のおかげと感謝している。今後もギブアンドテークを基本に,各自テーマ・話題を持ってきてもらって,活発な活動をお願いする。今年は関西品質工学研究会から新しいメッセージを発信することを計画したいと挨拶があった。次いで,2007年度活動報告・会計報告,2008年度活動計画・予算計画,新幹事が紹介され,承認された。
(2)原和彦顧問の講演:関西品質工学研究会も15周年を迎えることができた。当初15名から出発して現在76名まで増え成長し続けている。これからの発展も期待する。品質工学が企業や教育現場で普及するためには,過去を振り返り,品質工学の原点に戻ることの大切さを痛感した。原点回帰で田口玄一氏の残された言葉の意味を正しく理解して,社会損失の最小化を常に考えて行動することが肝要である。田口氏の実験計画法下巻(538頁)に,「一生懸命,長い時間働いたけど,その成果はゼロだった時われわれは,その人の仕事量はゼロと考えるのである。
仕事量はアウトプット(出力)で測るべきで,インプット(入力)で測ってはならない。仕事量は力×時間ではなく,結果すなわちアウトプットの方から計算しなければならない…。」と述べられている。全エネルギー(ST)は有効なエネルギー(Sβ)と無効なエネルギー(Se)の和であるピタゴラスの定理で表されるから,有効なエネルギーを増やし,無駄なエネルギーを減らすことが大切である。
品質工学は,問題を解決する道具ではない。技術者が考えたシステムが良いのか悪いのかを評価する手法である。上手く行かなかった時は,特性値・制御因子・水準幅・複雑なシステムの再考等を見直す必要がある。また,“無用の用”の考え方を取り入れることも参考にして欲しい。第10回品質工学研究発表大会特別講演において,田口氏が講演された「品質保証(信頼性)は品質工学で―機能性の活用―」は,原点回帰する上で参考になるメッセージが発信されている。必ず一読し,機能性評価・損失関数を活用した社会的損失の最小化が当たり前になるような仕事の進め方を期待する。
(3)研究会:グループディスカッションの形で4グループに分かれて実施した。
全体討議は,「光沢ばらつきの改善について」((株)コダマ 新井千穂)のテーマで実施した。ある形状をした物をメッキすると光沢ばらつきが発生し対策に苦慮している。会員からは,テストピースの形状をエッジが多い・平面が多いサンプルを作成する,出力を官能検査の光沢ではなくメッキ厚にしてみる,過去データが豊富な場合はMTシステムで解析してみる等の活発な議論が行われた。
(4)新年会:研究会終了後,新年会を実施,和気あいあいの中,引き続き活発な議論が行われた。