モノづくり什の掟(じゅうのおきて) (関西品質工学研究会 原顧問より)
「モノづくり什の掟」の解説
1.モノを作る前に、品質を創れ
従来は、モノを設計して、試作品を数台作り、信頼性試験や寿命試験を長時 間行い品質評価をするのが普通ですが、時間がかかるばかりで効率的でないの です。品質工学では、技術開発段階で要素技術や製造技術のロバスト性(機能 の安定性)を確立してから、設計段階ではその技術を寄せ集めて、目標値への チューニング設計を行えばよいのです。 ロバストネスの研究はノイズと制御因子の交互作用で SN 比で「非線形効果の 研究」を行い、チューニング設計では、感度で「線形効果」を利用して「編集 設計」を行います。
2.品質工学は統計ではない(必然誤差)
品質管理では統計的な偶然誤差を利用して、出来たものの品質を「管理」し ますが、品質工学では、モノのばらつきは偶然ではなく、使用環境条件や劣化 のノイズで必然的にばらつくものと考えて、意識的にノイズでいじめることで 品質評価が出来るのです。品質工学は、新しいものを創造するために、ノイズ でシステムをいじめてモノづくりを行うのです。そこでは、統計的な偶然誤差 や正規分布など存在しないのです。 平均値とばらつきだけでよいのです。 目標値からのばらつき=(平均値と目標値の偏り)^2+(平均値のばらつき)^2 で評価します。
デミング博士は晩年、品質管理の考え方(Cpk や ZD(ppm 管理)やシック スシグマなど)は間違っているから永久に止めて、品質工学の田口損失関数を 用いることがベターであるといわれていた。問題が起きると「原因追求」を行 うが、源流や上流の技術開発や商品設計で「ロバスト設計」を行うことが大切 である。
3.科学的思考ではモノは出来ない(技術的思考)
科学的思考では、トラブルが起きたとき現象解明で原因追求を行い再発防止 を行いますが、技術的思考では、理想機能の乱れ(ばらつき)を積極的なノイ ズを使っていじめることで市場品質の評価が出来てトラブルの未然防止が出来 るのです。
科学的思考は1+2=3と考えますが、技術的思考では1+2は3にはならな いのです。
4.市場品質はすべて設計で決まる(94%は設計責任)
品質管理では、「工程で品質を作りこめ」といいますが、製造では設計段階で 市場品質について最適な設計条件が決められた後なので、標準条件で経済的な 製造条件を決めることが目的なのです。工程品質は規格内の合否の判定ですか ら「コスト問題」なのです。市場クレームは機能限界を超えたときに起こると 考えて、安全率は4とすると、クレームの94%が設計責任で残りの6%が製 造責任と考えるのです。
5.完全な設計は試験や検査は不要
従来は試験や検査で設計の良否を判断しますが、設計に自信がないので試験 や検査でデバックするのです。品質工学では機能性評価やパラメータ設計で市 場品質の未然防止を行いますから、試験レス検査レスの設計が出来るのです。
6.品質評価はn=1でよい(短期間評価)
従来はたくさんの製品をを作ってn数のばらつきを調べますが、お客様は 1 個の製品しか買いませんし、トラブルが起きるのは、1 個の品質が故障を起こす からです。不良品の分布など関係ないのです。したがって、品質工学では、目 標値からのずれをn=1で評価します。直交実験でもn=1でノイズの交互作 用を調べて評価するのです。 病気を診断する場合でも一人一人の症状が問題であって、病人の分布は関係 がないのです。漢方では個人の症状で判断して薬を調合します。 しかも短時間で評価することが大切で、1 週間以上の試験は意味がないのです。
7.品質を改善するときには品質を測るな(機能性評価)
英語では To get Quality, Don't measure Quality. といってトラブルがあった ときに、トラブルの原因を追求するのではなく、機能性を評価して一石全鳥の モノづくりを行えば、品質問題も起こらないのです。
8.評価はあるべき姿を定義して、安定性は SN 比で行う
機能性評価では、理想機能を定義して、ノイズの交互作用で理想機能からの ばらつきを SN 比で評価します。SN 比はベンチマークとの比較で相対評価を行 うもので絶対評価ではないのです。市場での品質評価は、SN 比の逆数である損 失関数を用いて、経済的評価を行います。
寿命を評価するときには、機能性評価で SN 比が3db 差があれば寿命は2倍異 なるのです。感度の変化率で機能限界を超える時間や回数で寿命を推定できる のです。
9.直交表で設計の再現性を検査する(パラメータ設計)
選択したシステムについて、システムの最適化設計を行うため、制御因子とノイズの交 互作用で直交実験を行いますが、直交表の目的は、推定実験と確認実験の利得の一致で下 流での再現性をチェッックします。
10.システムは複雑でなければ改善できない
(部分最適から全体最適) パラメータ設計において、制御因子の数が少ない場合は改善の効果が低いのです。中国 の荘子の哲学で「無用の用」という考えがありますが、「空」が有用なのです。道路の道幅 が人間の足の幅以上にあるのは開いている部分が必要であるからです。ホイストンブリッ ジで抵抗を測定しますが、抵抗を含む制御因子が 5個も存在するので、電圧がばらついて も抵抗の精度を正確に測定できるのです。 サブシステムで部分最適になっても、全体システムで最適になるとは限らないのです。 評価するときには、サブシステムは制御因子ですから、全体システムの機能性で評価する ことが大切なのです。